簡単な刑はとっとと

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簡単な刑はとっとと


懐徳は当然、この場に口を出す立場にはないが、
「では、ただちに刑の執行を」
 言い置いて席を立った上司の後を追った。
 音から察するに、命令のとおりになったらしい。なにしろ、罪人を拘束しておくにも費用がかかる。こういう簡単な刑はとっととすませて、官衙から放り出すにかぎるのだ。なにやら抗弁する声が、やがて規則正しい音にとってかわった。
「……知事」
 懐徳が顔をしかめながら上司に話しかけると、軽く右手が振られた。
 だまれとでもいわれたのかと、思わずむっとすると、
「希廉どの、だれか、手のあいている人はいますか?」
 妙なことを訊かれた。
「は」
「ですから、これから出かけてもらいたいのです」
「使いですか?」
「信頼がおけて、表の、特に下役人たちに顔を知られていないのは誰でしょう。刑が終わったら、あの男の後をつけさせてみてほしいのですが」
「と、おっしゃいますと?」
「後で説明しますよ。ほら、すぐに放免《ほうめん》になってしまいます。だれか、適当な人はいませんかね」
 簡単な刑だから、終わるのも早い。
「わかりました。書生ならあまり顔も知られていないでしょう。今、奥にいる者ならだれでも十分お役に立つと思います」
「早くお願いしますよ」
 言い置くと、包知事はもうくるりと背中を向けて手の中の書類に目を通している。歩きながら読むものだから、廊下の敷石にあやうくつまずくところだった。
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